建設工事から伴い発生する廃棄物を元請業者が運搬する場合、許可が必要か悩む人のイラスト
Q:建設工事に伴い生ずる産業廃棄物を元請事業者が自社で運搬する場合、産業廃棄物収集運搬業の許可が必要である?

A:元請業者が排出事業者となり、自社運搬であるため産業廃棄物収集運搬業の許可は必要ない。
疑問

元事業者とはいえ、産業廃棄物を運搬するのに許可が必要ないのはなぜ?

廃棄物処理法において、産業廃棄物を処理する場合には、原則として許可が必要です。しかし、すべての事業者が許可を取得しなければならないわけではありません。どのような事業者が許可の対象となるのかを正しく理解することが重要です。

それでは、まずは産業廃棄物収集運搬業の許可の条文を確認します。

(産業廃棄物処理業)
廃棄物処理法第14条
 産業廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあつては、産業廃棄物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、事業者(自らその産業廃棄物を運搬する場合に限る。)専ら再生利用の目的となる産業廃棄物のみの収集又は運搬を業として行う者その他環境省令で定める者については、この限りでない。

条文のうち、重要なのは「ただし書き」の部分です。基本的には、産業廃棄物収集運搬業を行うには許可が必要ですが、「ただし書き」によって事業者(排出事業者)が自らが運搬する場合は許可が不要であるとしています。
ですので、今回のクイズにある元請業者が排出事業者となる場合、産業廃棄物収集運搬業の許可は不要ということになります。

では、建設工事に伴い発生する廃棄物の排出事業者は元請業者となるのでしょうか。
この点については、廃棄物処理法第21条の3において、次のように定めれらています。

(建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理に関する例外)
廃棄物処理法第21条の3
 土木建築に関する工事(建築物その他の工作物の全部又は一部を解体する工事を含む。以下「建設工事」という。)が数次の請負によつて行われる場合にあつては、当該建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理についてのこの法律の規定の適用については、当該建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者から直接建設工事を請け負つた建設業(建設工事を請け負う営業(その請け負つた建設工事を他の者に請け負わせて営むものを含む。)をいう。以下同じ。)を営む者(以下「元請業者」という。)を事業者とする。

条文にあるとおり、建設工事に伴い発生する廃棄物の排出事業者は、「元請業者」であることがわかります。
よって、元請業者が排出事業者となるため、元請業者が自ら産業廃棄物を運搬する場合には、許可は不要ということになります。

なお、廃棄物処理法第21条の3は平成22年の改正により追加された条文です。この改正では、建設工事に伴い発生する産業廃棄物の処理責任の所在を明確化することが目的とされていました。
この点については、当ブログの以下の記事で詳しく解説していますが、参考として当時の環境省通知を以下に再掲します。
2024年7月11日付「「下請」と「元請」が合意すれば、建設廃棄物の排出事業者を「下請」とすることは可能?

第十七 建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理責任を明確化するための措置
1 建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理の責任
 土木建築に関する工事(建築物その他の工作物の全部又は一部を解体する工事を含む。以下「建設工事」という。)が数次の請負によって行われる場合には、当該建設工事に伴い生ずる廃棄物について実際に排出した事業者を特定することは困難な場合もあり、その処理責任の所在が曖昧になりやすいという構造にある。

 このため、都道府県知事が行政処分を行う相手方が不明確となり、このような廃棄物の適正処理を確保するための措置を適切に執行することができないという問題が生じており、これが、今なお多く発生している建設工事に伴い生ずる廃棄物の不法投棄や不適正処理の一つの要因となっている。

 そこで、廃棄物処理に係る適正かつ効率的な行政運営により建設工事に伴い生ずる廃棄物の適正処理を確保し、ひいては生活環境の保全に資するため、建設工事に伴い生ずる廃棄物については、元請業者が、事業者として当該工事から生ずる廃棄物全体について処理責任を負うこととし、当該廃棄物の処理についての法の規定のうち、排出事業者に係る規定の適用については、元請業者を事業者とすることとした(法第21条の3第1項)。

 これにより、元請業者は、発注者から請け負った建設工事(下請負人に行わせるものを含む。)に伴い生ずる廃棄物の処理について事業者として自ら適正に処理を行い、又は委託基準に則って適正に処理を委託しなければならないこととなる。
また、下請負人は廃棄物処理業の許可及び元請業者からの処理委託がなければ廃棄物の運搬又は処分を行うことはできないこととなる。

平成23年2月4日 廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律等の施行について(通知)

この通知にもあるとおり、建設工事は関係する事業者が非常に多いことから排出事業者を特定するのが困難で、行政も指導対象の事業者を把握するのが難しい実情が改正前にはあったことがわかります。

なお、通知文の最後にもあるとおり、元請業者ではなく下請業者が廃棄物の処理をする場合は産業廃棄物処理業の許可が必要となります。