公営競馬場で発生した馬糞(ばふん)は事業活動に伴い発生した物なので、産業廃棄物の「動物のふん尿」に該当する?
Q:公営競馬場で発生した馬糞(ばふん)は事業活動に伴い発生した物なので、産業廃棄物の「動物のふん尿」に該当する?
A:競馬場は「畜産農業」ではないため、そこで発生した馬糞は「動物のふん尿」に該当しません。
疑問

「馬糞」は「馬のふん」なのに、なぜ「動物のふん尿」に該当しないの?

「廃棄物処理法の産業廃棄物の定義」と「日本語の一般的な意味」の間には、乖離が生じる場合があります。今回のテーマの「動物のふん尿」は、「日本語の一般的な意味」よりも「廃棄物処理法の定義」の方が狭く限定されているため、法令の規定そのものを参照することが必要になります。

「廃棄物処理法」と「廃棄物処理法施行令」の規定を見ていきましょう。

廃棄物処理法第2条第4項

 この法律において「産業廃棄物」とは、次に掲げる廃棄物をいう。
一 事業活動に伴つて生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物
二 (略)

廃棄物処理法施行令第2条 

 法第2条第4項第一号の政令で定める廃棄物は、次のとおりとする。
一~九 (略)
十 動物のふん尿(畜産農業に係るものに限る。
十一 動物の死体(畜産農業に係るものに限る。
十二 (略)

産業廃棄物となる「動物のふん尿」は、「畜産農業から発生したもの」に限定されています。

日本語としては、「競馬場で発生した馬糞」も「動物のふん尿」には違いありませんが、それが産業廃棄物に該当するかどうかを判断する際には、「排出元は畜産農業か否か」だけを見ていくことになります。

「競馬場」が畜産農業に該当するかどうかを判別するために、「日本標準産業分類」を参照しておきます。

公営競馬を主催する「競馬場」は、日本標準産業分類(2024年改定版)では、下記の分類となります。

細分類:8032 競馬場

大分類:R 生活関連サービス業,娯楽業

中分類:80 娯楽業

小分類:803 公営競技団

このように、「競馬場」は「畜産農業」に分類される事業ではありませんので、そこで発生した「馬糞」は、産業廃棄物の「動物のふん尿」には該当しないことになります。

疑問

では「馬糞」は「一般廃棄物」なの?それとも別の「産業廃棄物の種類」に該当するの?

※2025.5.31 筆者追記
(ここから)
現在の一般的な行政解釈としては、「畜産農業以外から発生した動物のふん」は、「畜産農業由来ではない」=「産業廃棄物ではない」と解釈し、「事業系一般廃棄物」と扱う(考える)ことが主流です。

しかしながら、実際には、「競馬場の馬糞」は市町村の清掃工場で焼却されることはなく、大部分が「肥料原料」として、競馬場近隣の農家等に引き取られていたため、「一般廃棄物か?産業廃棄物か?」が問題となることはなく、馬糞の大部分の行先は固定化されていました。

下記の「汚泥として扱うことが妥当では?」という主張は、筆者の私見でしかありませんが、農業の担い手が減少している昨今、農家の善意頼みでは馬糞の処分(?)が成り立たなくなりつつありますので、「産業廃棄物の汚泥」として、適切に処分・再生を進める方が現実的ではないかと考えております。
(ここまで)

筆者は、「競馬場で発生した馬糞」は、「(事業系)一般廃棄物」ではなく、産業廃棄物の「汚泥」として扱うべきと考えています。

その理由は、

  • 「競馬場で発生した馬糞」を、市町村が処理すべき一般廃棄物として、一般廃棄物処理基本計画に位置付けている市町村が無い ⇒ 廃棄物処理法制定以前より、「競馬場で発生した馬糞」は競馬場の責任下で処理されていた
  • 産業廃棄物の「汚泥」には、発生業種の限定が無い
  • 「馬糞」は、その上に立つ人の足が沈む程度の「泥状を呈している」ことがほとんど

というものです。


以上のように、廃棄物処理法の産業廃棄物の定義は、一般常識から連想される意味よりも「狭くなるケース」と「広くなるケース」の両方がありますので、法令上の定義を正確に理解することが非常に重要です。